無知を承知で書きますが,建築家とは哲学者だと思いました。
歴史,文明,環境,自然災害などについて深く思考し,その根本を見つめるのです。
一番関心したのは,隈氏がフランクフルト工業美術館の庭に茶室をつくってほしいと依頼された話です。しかも,その内容が「自然素材を使わない茶室」だったのです。
土,木,紙を使用して初めて茶室ができあがるのですから,この依頼は無茶すぎるのです。しかし,隈氏は,断ることなく引き受けるのです。
隈氏は,そもそも「茶室とは何か」「自然素材とは何か」「やわらかさとは何か」と深く考えるのです。そして,千利休の茶室である「待庵(たいあん)」を徹底的に研究します。隈氏は,茶室について,以下のような思考を巡らします。
〈引用始まり〉
「西欧では世界そのものに階層をつけ,「大きな空間」と「小さな空間」とに,ヒエラルキーをつけた。世界とは序列であり,大小であった。ところが,その序列がない。客の空間とサービスする空間は,主従,大小関係にはない。そこにヒエラルキーはない。茶室ではしばしば,客のための空間はより狭くより暗い。」
〈引用終わり〉
建築という未知の世界でしたが,知的な興奮が得られた1冊です。