半径3mの教育論

中学教師の教育雑感記

2446 読破85冊目「聖痕」

●「聖痕」(筒井康隆 新潮文庫★★★
簡単に言えば,一人の青年の人生をそれぞれの時代背景とともに描いている本だと言えます。
しかもこの青年は美しい顔,素晴らしいスタイル,優れた頭脳,優しい心などどれをとっても欠けている部分はないのです。
ただ一つ,幼い頃に何者かによって「男性器」を切り取られてしまった以外は。
生物が生きる目的は何ででしょうか,それは種の保存だと思います。
人間も生物の1種ですから,人間が生きている目的は種の保存なのです。
こう考えると人間がもつ様々な欲望の中で,一番強いものは「性欲」となるのです。
しかし,この青年は「性欲」から切り離された人生を送ることになりました。
つまり,人間ではなく「聖人」的な存在になったと言えます。
筒井康隆は,1970年代から3.11までを背景にした「聖人」伝を書いたのではないかと想像しました。
天才的な作家,ツツイですからなかなか難解な言葉を駆使して書いています。
しかし,その難解な言葉を使うことで現実とは違った寓話性を醸し出しているといってもいいでしょう。
以前読んだ「美藝公」と同じ香りがしました。
いろいろと深く考えるのではなく,数奇な人生を送った一人の青年の話と捉えるといいと思います。

100冊読破まで,あと15冊です。
果たして何冊まで読破できるか,冬休みに賭けます。

聖痕 (新潮文庫)

聖痕 (新潮文庫)