半径3mの教育論

中学教師の教育雑感記

1984 95冊目「アグルーカの行方」

●「アグルーカの行方」(角幡唯介 集英社★★★
19世紀,イギリスはアジア貿易の交通路を求め北極海を通過する北西航路を開拓するために,極地探検に力を注いでいました。
その代表的探検家として,ジョン・フランクリンがいます。彼は,イギリス国王の依頼で部下128名を連れて北極海の探検に出ます。しかし,極寒やビタミン不足から来る壊血病,そして食糧不足などが原因(とされている)で全員が死亡するという最悪の結果になってしまいました。
そのフランクリン隊が通ったコースをたどり,フランクリン隊がどうして全滅したかを探るノンフィクションです。
角幡さんは,仲間と2人で103日間にわたり約1600キロを橇を引きながら歩きました。マイナス30度という極寒,しかも乱氷で歩きにくい状況でした。北極熊の恐怖に怯える時もありました。
こういった極限状態で人間には何ができるのか,どうなるのか,どうすれば生き残れるのかということに対して,以前からずっと興味がありました。いろいろな探検もの,漂流もの,登山ものなどをいろいろと読みあさってきました。
グーグルアースで地球上どこでも見られる時代となり,冒険や探検に魅力がなくなってきているように思います。しかし,こんな時代だからこそ,自分の目で見る,肌で感じる,耳で聞くなどを大事にする角幡さんの冒険に惹かれるのかもしれません。
探検について,角幡さんは,こう書いています。
〈引用はじまり〉
探検家が探検をすることには多くの人が様々な理由をつけてきた。それは社会的名誉だったり,軍人社会での出世だったり,他国との領土拡大競争の結果だったり,商業的な側面からの要請だったりした。もちろん部分的には正しかっただろう。しかしそれらは私にいわせると部分的にしか正しくない。そんなことは人間が探検をする本当の理由にはならない。探検をしない人たちが考え出した分かりやすい理屈に過ぎないのだ。悩みや葛藤や逡巡という要素を取り除いた,やらない人たちが納得するためだけの,きれいに体裁を整えた説明なのだ。
〈引用終わり〉