半径3mの教育論

中学教師の教育雑感記

1553 42冊目「お手本国のウソ」

●「お手本国のウソ」(田口理穂ほか 新潮新書★★★★
今日は,朝から部活でした。午後は,妻と一緒にホームセンターへ植木鉢を買いに行きました。観葉植物がぐんぐん育ってきて,鉢が小さくなってしまったからです。店内に入ると冷房が効いていないのかなと思うほどでした。節電のせいでしょう。
さて,帰宅後しばらくの間,風が通る涼しいところで読書をしました。
この本は,日本がお手本としている国について,実際にその国に住んでいる日本人がほんとのところを報告しています。一番面白かったのは,「世界の教育大国にフィンランド・メソッドはありません」という章です。現在は,あまり聞かれなくなりましたが,PISAの結果が公表された時は,フィンランドの教育がどんなに素晴らしいかを紹介する本がたくさん出版されていました。公的研修会でもよフィンランドの教育について学ばされました。しかし,ほんとのところはどうでしょうか。その一部を紹介します。
<引用はじまり>
この国では教職はクリエイティブな職種とみなされており,大学でも教育学部は競争率10倍という狭き門の人気学部だ。加えて1976年以降,特に小学生の先生になるには修士号の取得が必須とされている。フィンランドの先生は,ほぼずべて超高学歴というわけだ。このように教職の人気が高く,先生の社会的地位が依然として高いことこそ,生徒の人権を大きく認め過ぎて学級崩壊が問題となっているお隣スウェーデンの二の舞にならずに済んだ要因と広く受け止められている。

1991年のソビエト連邦崩壊後、それまでソ連頼みだったフィンランド経済が危機に見舞われて国家財政が逼迫した際、当時のヘイノネン教育相が「このような危機の時こそ、教育に投資することが将来の経済成長を生み、雇用確保につながる」と説き、教育費の大幅増額を要求したのだ。その精神が現在まで維持されている。
<引用終わり>

表面だけの良い部分を真似してもうまくいかないと誰もが経験で知っていると思います。フィンランド・メソッドが伝家の宝刀みたいに扱われたこと自体がおかしいのです。宗教や民族も違う,生徒と教師の関係も違う国の方法をすべてよしとすること自体がおかしいのです。よい部分もあれば,マズイ部分もあるのです。マズイ部分の一例を紹介します。

<引用始まり>
「住みやすさ」ばかりが語られがちだが,無視できない事実もある。それはこの国の自殺率の高さだ。フィンランドの自殺率は1965年から1990年の間に3倍も膨れ上がり,1990年には世界第3位の「自殺大国」であった。1986年から国を挙げて取り組んだ,世界初の「自殺予防プロジェクト」のお陰で,1992年から自殺率は約半分に減少し,2011年の現在では世界14位(日本は8位)と随分下がったものの,20歳から34歳の男性における死亡原因の最上位だ。2007年の統計によれば自殺は国内の死因別死亡率で4位,全体では毎年千人近くが命を絶っている。
<引用終わり>

学力が高くても,命を粗末にする国が素晴らしいとはとても言えないでしょう。日本にもあてはまる部分はありますよね。

お手本ではなく,ちょっとしたヒントをもらう程度でいいのかもしれませんね。

「お手本の国」のウソ (新潮新書)

「お手本の国」のウソ (新潮新書)